
パラ水素誘起偏極(PHIP)法による
13C核スピンへの超偏極誘導では、分子内の全ての核スピン間のスピンースピン結合定数(J値)の情報が重要です。これまでサイドアーム(SAH)型のPHIP法で用いられる有機酸の不飽和エステルでは、パラ水素由来の2つの
1Hと有機酸上の
13Cが共有結合4-5個分離れており、実測は困難とされていました。私達はsel-HSQMBC-TOCSYなどのNMR測定技術を駆使してこの長距離J値の大きさと符号の決定に成功し、分子内の全てのJ結合定数ネットワークを用いた量子化学計算(核スピンの密度汎関数理論計算)から、有機酸のアリルエステル体の分極移動においては、パラ水素由来の2つの1Hの量子状態がまず隣のメチレン1Hに移り、そこから有機酸上の
13C核へと量子状態が伝わる2段階の分極移動が起きていることを見出しました。この新たな励起機序を励起装置に実装することで、PHIP-SAH法による有機酸の
13C偏極率(~MRI感度に比例)を従来条件より2倍以上改善することに成功しました。この研究成果はJournal of Magnetic Resonance (2018)に掲載されました。