最近の成果
2024年2月7日 IEEE Transaction on Biomedical Engineering
超偏極13C MRIは、13C標識化合物のMRI信号を一時的に数万倍に増幅することで、生体内における代謝反応をリアルタイムに可視化できる画像診断技術です。既に世界15ヶ所以上でがん診断の臨床研究も行われていますが、5億円以上におよぶ現行の動的核偏極(d-DNP)の初期費用が一般病院への普及のネックとなっています。本研究では、容易に量子状態を制御できる水素ガスを偏極源に、常温・地磁場、つまり普通の部屋で超偏極誘導できるパラ水素誘起偏極法(PHIP)の自動励起システムを開発し、実際に超偏極13Cピルビン酸のMRI代謝イメージングが取得できることを報告しました。この成果は、IEEE Transaction on Biomedical Engineeing誌に採択されました。
2021年5月10日 ChemPhysChem
フマル酸はグルコースの代謝物の1つですが、外来的に静脈内投与したフマル酸は細胞内への移行速度が遅く、正常組織ではほとんど代謝されません。細胞膜の破壊を伴うネクローシス(壊死)が起こっている組織では、本来細胞内に局在するフマラーゼが細胞外へ放出されるため、外来性フマル酸のリンゴ酸への代謝が観測されます。私達は、trans選択的な水添触媒[Cp*Ru(MeCN)3]PF6を用いたパラ水素誘起偏極(PHIP)法により、10万倍のNMR/MRI信号を出す超偏極[1-13C]フマル酸を作成しました。この超偏極[1-13C]フマル酸を投与した肝障害マウスのMRI撮像により、肝障害における壊死のイメージングにPHIP法では世界で初めて成功しました。この研究成果はChemPhysChem (2021)誌に採択され、表紙にも選ばれました。
パラ水素誘起偏極(PHIP)法による13C核スピンへの超偏極誘導では、分子内の全ての核スピン間のスピンースピン結合定数(J値)の情報が重要です。これまでサイドアーム(SAH)型のPHIP法で用いられる有機酸の不飽和エステルでは、パラ水素由来の2つの1Hと有機酸上の13Cが共有結合4-5個分離れており、実測は困難とされていました。私達はsel-HSQMBC-TOCSYなどのNMR測定技術を駆使してこの長距離J値の大きさと符号の決定に成功し、分子内の全てのJ結合定数ネットワークを用いた量子化学計算(核スピンの密度汎関数理論計算)から、有機酸のアリルエステル体の分極移動においては、パラ水素由来の2つの1Hの量子状態がまず隣のメチレン1Hに移り、そこから有機酸上の13C核へと量子状態が伝わる2段階の分極移動が起きていることを見出しました。この新たな励起機序を励起装置に実装することで、PHIP-SAH法による有機酸の13C偏極率(~MRI感度に比例)を従来条件より2倍以上改善することに成功しました。この研究成果はJournal of Magnetic Resonance (2018)に掲載されました。