研究プロジェクト
超偏極13C脳代謝MRIによる末梢・全身性疾患に伴う認知機能障害の包括的理解(科研費・基盤A R6-9)
科学研究費補助金・基盤研究Aに採択された研究プロジェクト。潰瘍性大腸炎や糖尿病、感染症などの末梢・全身性の疾患に罹り、脳がツラいと感じるとき、ニューロンでは様々な代謝反応が変化し、そのニューロンの代謝変化に応じて、周囲のグリア細胞でもまた別の代謝変化が起こります。本課題では、このような一連の脳代謝変化を最先端のMRI技術である超偏極13C MRIによって非侵襲的に可視化し、並行して疾患モデル動物の行動解析や薬理実験、生化学指標と組み合わせることで、末梢・全身性疾患がもたらす脳機能への影響を包括的に理解し、深刻な神経変性疾患へと移行する前段階での評価法と治療介入法の確立を目指します。
一重項水素を用いた脳代謝フラックスの超高感度センシングとストレス応答解析(AMED-PRIME R5-8)
日本医療研究開発機構AMEDの革新的先端研究開発支援事業PRIME「ストレスへの応答と疾病発症に至るメカニズムの解明」研究開発領域に採択された研究プロジェクト。日常生活では、がんや炎症性胃腸疾患、視力低下といった内因性ストレスの上に、感染症や花粉症などの生物的ストレス、過労や睡眠不足といった身体的ストレス、不安や重圧などの心理・社会ストレスが一時的に重なることが起きます。これらのストレス時に共通してみられる現象の1つは思考力・集中力・ワーキングメモリの低下を伴う認知機能障害であります。本課題では、脳機能障害と相関する脳代謝フラックスの超高感度計測技術を開発し、複数のストレス併発時のリスク推定法の確立を目指します。
パラ水素誘起偏極13C MRIによる感染後遺障害の非侵襲イメージング技術の開発(挑戦的研究・開拓 R4-6)
科学研究費・挑戦的研究(開拓)に採択された研究プロジェクト。新型コロナ禍において、感染症寛解後も持続する嗅覚や味覚の消失、認知機能障害・うつ病・不安障害、心筋炎など感染後遺障害が大きな社会問題となっています。しかしながら、既存のどの診断法も感染に伴う心筋炎の十分な検出感度は得られず、また、嗅覚・味覚異常や精神障害は、自己申告に基づく主観的評価に留まり、特異的な生化学マーカーや画像所見は確立されていません。本課題では、超偏極13C MRIによる代謝イメージングと18F-FDG PETなどの既存の核医学診断を組み合わせることで、非侵襲的かつ半定量的な画像診断による感染後遺障害の評価方法の確立を目指します。
常温・低磁場核偏極による安定同位体PETイメージングの実現と実用展開(科研費・基盤A R2-4)
科学研究費補助金・基盤研究Aに採択された研究プロジェクト。核偏極タグは、安定同位体(Stable Isotope, SI)である13C標識した分子の核偏極率を数万倍に励起することで、放射性同位体標識に匹敵する超高感度検出を可能とする分子センシング技術です。核磁気共鳴画像(MRI)を用いて陽電子放出断層撮影(PET)の様な分子イメージング(SI-PET)が可能になります。本課題では、平行実施するAMED先端計測プロジェクトで基盤技術開発に成功した常温・低磁場核偏極によるSI-PET技術を用いて、様々な疾患の新たな画像診断法の創出を目指します。
低磁場核偏極NMRと深層学習によるon siteメタボローム診断(科研費・萌芽 R2-3)
科学研究費・挑戦的研究「萌芽」に採択された研究プロジェクト。現在の臨床検査は“1つの検査で1つの疾患”を高い感度と特異性で検出するタイプが主流です。本課題では、1つの検査で数十種類の主要な疾患がその場で直ぐに判定できる臨床検査装置の基盤技術を開発しています。常温・低磁場核偏極により液体生検中の代謝物群をまとめて励起し、その超高感度を活かすと通常数時間を要するNMRメタボローム測定を、積算無しの数分で完了させることができます。得られたNMRデータから深層学習を用いたパターン認識で疾患をその場で判定するon site診断の実現を目指します。
低磁場核偏極による生体分子の超高感度センシング技術の開発(AMED先端計測 H30-R2)
AMED医療分野研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラムの要素技術開発タイプに採択された研究プロジェクト。超偏極13C MRIはPET/SPECTのような放射線被曝の問題が無く、光学系イメージングでは困難な体深部においても複数の代謝反応を同時に可視化できる次世代の分子イメージング技術として期待されている一方で、3T以上の超電導磁石と1K以下の極低温条件を必要とする現行の動的核偏極の励起装置による超偏極13C MRIの臨床初期コストは数億円に及び、一般病院への普及を妨げる主因となっています。この研究では、常温・低磁場において13Cや15N核スピンに核偏極を誘導する基盤技術を開発することで、超偏極13C MRIの臨床初期コストを10分の1に抑制することを目指します。
終了した研究プロジェクト
パラ水素誘起分極13C MRIによる細胞死の非侵襲的イメージング技術の開発(科研費・萌芽 H30-R1)
科学研究費・挑戦的研究「萌芽」に採択された研究プロジェクト。炎症性疾患、外傷、虚血や梗塞など多くの疾患において、その重症度を評価する最も端的かつ合理的な指標は“どれだけの細胞が死んでいるのか”です。治療の観点からは、例えば脳梗塞時にどれだけの神経細胞を死から救えたか、あるいは逆に抗癌治療によりどれだけ多くの癌細胞を殺せたのか、が治療効率の判断基準となります。しかしながら、体深部の臓器・組織における細胞死を非侵襲的に評価する手法は未だ確立されておりません。“超偏極”13C核磁気共鳴画像(MRI)は13C標識した任意の化合物の13C NMR信号を数万倍に増幅することで、その生体内における代謝反応をリアルタイムに可視化するMRIの最先端技術であります。本課題では、①正常な組織においては、外来的に投与した基質とは反応しない細胞内に局在する酵素で、②細胞膜の破綻を伴う細胞死により細胞外に放出され、③補酵素を必要とせず、細胞外に放出された後も活性を維持している酵素、を標的に超偏極13C MRIで代謝イメージングを行うことで、ネクローシス等の細胞膜の破綻を伴う細胞死の生体内分布を非侵襲的に可視化する分子イメージング技術の開発に挑戦します。